標本


ありふれた言葉で紡ぎだした今日はその場かぎりの日
与えられた時間は過ぎ もらった過去は瞬間で消えた
もらった過去に似たものを前から持っていたから
同じようなものはいらないから 一瞬で判断は下された

今日はいらない日

買ってきた言葉をくり返し 楽しそうに笑う君
ひとつのお店の名前を言って去っていく そして「買っておいで」と
毎日君が私に見せる場面 君の日常
毎日言葉を一つ買ってきては「買っておいで」と
君はいつも私に言うから 君が毎日同じに見えるから

今日の君もいらない君

君に考えていることを伝えようと言葉を並べる私
並べ終わり沈黙の言葉を置いた私に君はいつもの言葉を置く
「どの言葉を買ってきて欲しいの?」と
どこで売っているのかわからないから 私はいつも同じ言葉をたす
「いらない」と 毎日私が君にくり返している場面 私の日常

君には私が毎日同じに見えるから 今日の私もいらない私
私にも君が毎日同じに見えるから 今日の君もいらない君

二人とも毎日同じに見えるから 今日の二人もいらない二人

違う言葉があることに気がついたのなら 捨てないのに…
残しておいたのなら いつかは理解できたのに…
君は私を 私は君を 理解できたのに…


「existence − 心の鎖 −」より (C)美琴