真実と劇


天上人は雲に水を与え育てる
風で流れた水が地上へ降り注ぐ
地上人はそれを雨と思う
天上人が水を与え過ぎた
雲が千切れて地上へ降り注ぐ
地上人はそれも雨と思う

天上人の生活は続く

天上人は星を地上に降り注ぐ
太陽の居るうちに
そして地上人の気づかないうちに空へ戻す
地上人の瞳には太陽の光の一部と見える

天上人の実験は続く

天上人は夜 星を投げて遊ぶ
取りそこねた星は夜空で跳ねる
そして星の粉が地上へ落ちていく
地上人は流れ星を見る
天上人は月の舞台で踊る
舞台の形を変えながら
地上人は月の満ち欠けを観測する

天上人は月の舞台を夜空の裾で磨く 少しずつ
地上人は新月を迎える
天上人が月の舞台を磨き終わる
地上人は満月を迎える

天上人の遊びは続く

天上人は人形を取り替える
星から作られた新しい人形と
そして古い人形はまた星に作り変える
地上人は誕生と死をくり返す

地上に置くだけで始まる人形劇
天上人だけが観客
地上人の会話は祈りの台詞
天上人の反応は木の葉のざわめき

地上人は自然の変化に神を見る
天上人は声を聞き 声の通りの神を演じる

終わることのない二つの劇
交じることのない二つの劇

天上人と地上人の演技は続く


「existence − 心の鎖 −」より (C)美琴